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パナマ運河
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Panama Canal, Panama
パナマと聞いて最初に思い浮かべるのは帽子や葉巻ではなく、やはりパナマ運河だろう。
それもそのはずで、パナマはそもそも運河の建設のためにアメリカがコロンビアから独立させた国なのだ。
それほど運河は国の成立ちに深くかかわっている。

パナマ運河の建設の歴史はなかなかドラマに満ちている。
パナマ地峡に運河を通す構想が最初に生まれたのは16世紀の頃だが、実際に建設工事が開始されたのは19世紀後半のことで、スエズ運河を開通させたフランスのレセップスがその勢いを駆って1881年に建設に着手する。当初の計画は現在の閘門式ではなく、スエズ運河のように海面と同じ高さまで掘り下げるというものだった。

しかし、事前の地形・水利の調査や工事機械の不足、疫病の蔓延により工事は難航、パナマ運河会社は財務状態が悪化して1889年に破綻、工事は停止し、多数のフランスの市民や銀行が連鎖的に破産に追い込まれた。更に、同社の財務状態の隠蔽や資金調達に関連して、当時のフランス第三共和政の多くの政府高官に対する贈賄が発覚し、パナマ運河疑獄として知られる、19世紀最大とも言われる汚職スキャンダルへと発展する。

ハンナ・アーレントは「全体主義の起源」の中で、この事件が後のドレフュス事件へとつながる反ユダヤ主義の一因になったと分析する。というのも、パナマ運河会社で贈賄を取り仕切っていたジャック・ド・レーナックとコルネリウス・エルツはともにユダヤ系であり、彼らに対する世間の批判は凄まじいものがあったからだ。そしてドレフュス事件は周知のとおり、ホロコーストに至るその後のヨーロッパにおける反ユダヤ主義・全体主義の嚆矢となった。なお、レセップスはこの疑獄により名声を失い、精神の病を得て、失意の中1894年に狂い死にする。

その後、フランスに代わってアメリカが運河の建設を行うことを決定。
アメリカは運河の地政学的重要性から自国の管轄下に置くことをコロンビアに求めるが、コロンビアがこれを拒否。強圧的な「棍棒外交」で知られる時の大統領T. ルーズベルト(CLSの卒業生でもあるのだが・・)は、当時のコロンビア内戦に介入して無理矢理パナマを独立させ、運河の建設権と土地の永久租借権を確保し、アメリカの管理下で運河は1914年に完成した。そして時は流れ、パナマでの民族主義の高まりを受けて運河の返還を求める声が上がり、1999年に運河はパナマに返還された。


そんなパナマ運河だが、現在では世界の海運に欠かせない存在であることは言うまでもない。
毎日約40隻の大型船が通行し、更にパナマ運河はスエズ運河よりも狭いため、パナマ運河を通航可能な最大のサイズであるパナマックスは、世界中を自由に航行できる貨物船の最大サイズの基準となっている。

◆◆◆

ミラフローレス閘門はパナマシティからタクシーで20分程の所にあり、5階建てのビジターセンターの上の展望台から通り過ぎる船を見ることができる。巨大な船が、ゆっくりと近づいては閘門を通過して太平洋へと向かっていく。時間帯により航行できる方向は決まっていて、私が訪れた時は右から左(大西洋から太平洋)に向かう船だけだった。






閘門は二重×2の四重になっていて、船体が閘門の間に収まると水位を下げていく。
水位が下がり切ったら進行方向の閘門を開け、船は閘門を通りすぎる。





パナマックス船が通過すると、両岸にぶつかりそうなほど幅はギリギリで、上から見ても全く隙間が全く見えない。閘門を通過する時は船は自力航行ではなく、両岸にある数台の牽引車によって引っ張られて進む。下から見上げると小山のように巨大なコンテナ船がゆっくりと進んでいく様は勇壮だ。


この日のハイライトの豪華客船がやってきた。
長さ300メートル近いCarnival Miracleは幅もパナマックス。




乗客や乗員たちは皆デッキやバルコニーに出ている。彼らにとってもパナマ運河通過は一大イベントなのだろう。
予想どおりというか、乗客は見事に老夫婦ばかりである。お互いに手を振り合う。
おそらく二度と見かけることの無い人達との一瞬の邂逅。それにしても、お気楽なクルーズ船の雰囲気を、通常はあり得ない視点で外から眺めるのはとても妙な気分だ。


船の幅は上から見ると全く隙間が見えないほどギリギリである。少しでも寸法を間違えたら通れなくなりそうなほどだ。
そもそも何故ぶつからずに進めるのか非常に不思議である。こすらないように両岸に保護材があるわけでもないし・・



Carnival Miracleの通過を見送ってミラフローレス閘門を後にする。
帰り道、橋がCarnival Miracleを通すために二つに割れている所を見かける。非現実的なスケールの光景だ。
船たちは予想より大きく、パナマ運河は想像以上に壮大で実に見応えがあった。

ミラ・フローレス閘門/パナマ運河観光/パナマ旅行記