マプトは亜熱帯の空気とポルトガル的な色彩、共産圏風の無機質な建物が混交した、不思議に魅力的な街だ。
海風と強い日差しに晒されて立ち涸れるように色褪せた建物たち。真夏の空の下、放恣に繁茂する街路樹。熱せられた空気の中、緩慢に動き、佇み、蹲る人々。いわく名状しがたい虚脱感に包まれた街並みは薄れゆく前世紀の面影を宿しながらも、時折今日的な表情も見せる。
夕方のナンプラ行のフライトまで時間があったので、マプト市内を散策した。
38℃。夏の日盛りの陽が容赦なく体を熱する。
7月24日通りからオロフ・パルメ通りを経て独立広場へと下っていく。
広場の脇には白亜のロケットのようなマプト大聖堂が聳える。
市庁舎に面した広場の中央にはサモラ・マシェル(モザンビークの初代大統領)の像が屹立する。像の周りでは、マシェルと似たような体形のおばさんが似たようなポーズで芝生に水遣りをしていた。こんな陽気では撒いた水もすぐにぬるま湯になってしまうだろう。
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植物園の脇を抜け、中央市場(Mercado Municipal)へ。
以前の趣があった建物の前を塞ぐようにして醜悪なトタン屋根の市場が増築されていて、折角の美しい建物が台無しになっていた。美観に対する意識がゼロだなこりゃ。
駅の周辺には鉄道輸送向けの倉庫が立ち並びホームレスも多く、治安的には微妙な界隈だ。
人気のないうらぶれた通りを抜けると、ペパーミントグリーンの駅舎が現れた。
中央の時計塔が特に印象的な美しい建物だ。
マプト中央駅は20世紀初頭の建てられたマプトを代表する建築だが、ロンプラには(エッフェル塔の設計者の)エッフェルのデザインによると記載されているものの、実際は別のポルトガルの建築家が設計したというのが真相らしい。ちなみに紛争ダイヤモンドを題材にしたディカプリの映画「ブラッド・ダイヤモンド」のロケ地としても使用され、劇中ではホテルという設定だった。
鉄道駅から6月25日広場を通ってポルトガル時代に築かれた砦に向かう。
このあたりは道行く人が大概無気力で、野良人の割合がやたらと高い。
砦はこれといった特徴はなかったが、なぜか黒人のアルビノの巨大な写真が放置されていた。
アフリカを旅していると結構な頻度でアルビノの黒人を目にすることがある。
顔立ちは黒人なのに肌や髪の色はほぼ白人なので、見てすぐそれと分かる。要するに色素異常なのだが、黒人は元が黒いだけに目立ちやすい。
このアルビノ、アフリカでは一部のアニミズム信仰において崇拝の対象とされ、そのためアルビノ狩と呼ばれる人身売買が後を絶たないらしい。呪術医の作るポーションの原料としてアルビノの体の部分を使用するために、文字通り殺されたアルビノの肉体を売買の対象としているのだ。おそらくこの写真は啓蒙キャンペーンか何かで使用されたのだろう。
炎暑の中歩き回ったので、カフェでビールを飲んで休憩。
表の通りには、サングラスやお香、サンダルや野菜等を売り歩く物売りたちが行きかう。
マプトに限らず、モザンビークは物売りが扱う商品の種類がやたらと豊富で、生活用品から嗜好品、贅沢品まであらゆるものが歩きながら売られている。
この仕組みは無駄に歩き回らねばならない販売者側にとっても、場所や時間の確実性を享受できない消費者側にとっても非効率そのもののように思えるのだが、我々にとってあまり大したことないように思えるメリット(店舗を構えるコストがかからない、店までいく手間が省ける)が彼らにはとっては重要なのだろうか。資本の集積が未発達な経済では、僅かな元手で始められる参入障壁の低さはこちらが想像する以上に大切なのかもしれない。
とはいえ、どうして物売りに声をかけられてデッキブラシや卵を買う気になるのか、今ひとつ理解しかねるが・・・・
◆◆◆
ナンプラ行の飛行機に乗るためマプト空港に向かう。
到着した国内線ターミナルは、まるでアジアのどこかの新興国のハブ空港のように真新しくピカピカだった。ピカピカなのだが、国内線は1日わずか4本なので殆ど乗客がおらずガランとしている。採算性は完全に度外視されていて、おそらくどこかの外国の援助で建てられたのだろう。館内は外の炎熱が嘘のように冷房が効きすぎて肌寒いくらいである。
マプト空港を離陸した飛行機は夕暮れの中を北へと向かう。
途中激しい雷雨の中を通り抜けた時、小型機を除いてこれまで経験したことがないほど揺れた。命が縮む思いだ。
雨雲を抜けて下降していくと、夜の底にナンプラの街の明かりが見え始めた。
空港は街のすぐ近くにあり、着陸前には街角の風景がすぐ眼下を通り過ぎてゆく。
空港からタクシーに乗り、街灯が乏しい通りを抜けて今日の宿のHotel Milenioへ。
一泊$130以上と若干高いのだが、この下は急にレベルが落ちるのでやむなし。
サービスは微妙だしホテルの内装は若干殺風景でWifiは劇遅だったが、部屋は綺麗でなかなか快適だった。選択肢が少ないナンプラではベストのホテルの一つだろう。結局ナンプラにいる間はずっとここに泊まることになった。
モザンビーク旅行記:マプト、マプト大聖堂、マプト中央駅、マプト空港